夢は低コストなスマート農業

でも農薬は、手作りで人に害のないものにこだわって、食の安全を徹底!
何一つ無駄にせず、最後の一粒まで大切に、最高においしいイチゴを届けたい。

齋藤靖子さん(花巻市成田地区)

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ゲストプロフィール

今回のいわて未来農業創造人は、花巻市と北上市の境、成田地区でイチゴ栽培農家の、斎藤靖子さんです。米、苺、野菜、麦などをご両親、息子さんと一緒に複合経営で農業を営んでおられます。

高校卒業後、花巻農協Aコープに就職、結婚出産を機に子育てをしながらアルバイト気分でご両親の農業のお手伝いを開始。現在、お母様が中心だったイチゴ栽培を靖子さんが受け継ぎ、味と品質重視で安全安心なこだわりのイチゴ栽培を行なっています。

当初大変だった農作業も、視点を変えると楽しさに変わった

実家の農業をお手伝いとして始めた当時の靖子さんは、かなりのギャルで、生足に当時流行ったショートパンツに、田植え靴と言われていた高さのある長靴をロングブーツ風にして履きトラクターに乗っていました。

「近所の人や知らないおじさんの軽トラックがトラクターの横にきて、私のことをじっと観察していました。」と振り返る靖子さん。

22歳でトラクターの免許と大型特殊の免許を取り、約15町歩の田んぼをトラクター2台で、お父様と二人で稲作。作業は大変だったけど当時はギャルスタイルで農作業する人はほとんど無く、まだ誰もやってないファッション?を楽しんでいました。ギャルの格好でコンビニでおやつを買い、それを休憩で配って、みんなに「よくやるね」と言われ、どんどん農業が楽しくなりました。

収量の安定よりも味と高品質を重視して規模を縮小

ご両親中心でイチゴ栽培をしていた頃の出荷先は、主に県南青果市場、お父様が近所のイチゴ農家と共にイチゴ生産組合をつくり、農協へもたくさん出荷していたそうです。

「我家では、味・品質で勝負したい」という斎藤家でしたが、他の農家さんは「収量重視で収入安定が一番」と考えていて徐々に考え方が合わなくなり、当時の皆さんとはその時に生産組合を解散しました。」「平成9年には手伝いに来ていた方々も高齢になり「母と私の二人でできる規模にして、ハウスを2棟に減らし、ミツバチでの受粉や人に安全な手作り農薬で、味と安心安全重視のイチゴ栽培をしています。」と、靖子さん流のこだわりを教えてくれました。

新しい品種「もういっこ」との出会い

当時は「さちのか」「紅ほっぺ」という品種をメインで栽培。その後、宮城で「もういっこ」という品種ができました。「今までイチゴは、九州や西日本の品種しかなかったため気候が違う東北での栽培は管理が難しかったのですが、「もういっこ」は、東北で育てるのにぴったりで、輸送に適した堅さと、味も、酸味甘みともバランスが取れていて生食やケーキ用などの加工にもすごく合っているんです。今はこの品種でずっと作っていて「もういっこ」をメインに「紅ほっぺ」と真っ白なイチゴの「白い天使」という品種を50株ほど作っていて、アクセントに白い粒を1粒入れるだけでものすごく売れるんです」と靖子さん。

口コミでじわじわと拡大している出荷先

現在も県南青果市場がメインで、残り3分の1はJAいわて花巻が運営している「産直だあすこ」に出荷。残りは靖子さんのイチゴの味とこだわりに共鳴してくれるカフェやレストラン、ケーキ店などに口コミ中心で出荷先拡大中とのこと。

「だあすこさんは、JAいわて花巻さん運営の産直なので、生産者が高値を付けても安定して出荷できます。それをお客さまが安心安全で買ってくれます。市場さんは時期によって値段が上下するので、安定という意味では、だあすこさんに出した方が私たち生産者は安心できます。」と靖子さん。様々なマーケットを通して、皆さんのもとにイチゴを届けられるように工夫している靖子さんです。

食品ロス・資材ロス削減を目指して

今のハウスは昭和47年からのもので、収量も栽培方法も最新のハウスには負けてしまうということなので靖子さんは「愛情を込めて栽培したイチゴを全て残さず最後1粒まで収穫して、売れ残ったイチゴは冷凍して形を変えて提供できるよういろいろと考えています。」と。ハウスの設備は古いけれど、限界まで今ある資材も育てたイチゴも、余すことなく全て使い切り無駄をなくすことで、食品ロス・資材ロスの解消を実現しているということでした。

JAや普及センター、メーカー等との繋がりを大切に、自分なりのスマート農業を

某暖房機メーカーの実証実験として、一般的な暖房機を改造し試作した24時間温度管理可能なCO2発生機を2年ほど前に設置し、靖子さんが実験記録データを渡すことと引換えに無償提供されました。そのCO2発生機は、ハウス全体に巡らせたビニールのダクトでCO2を循環させていましたが、ビニールダクトは毎年交換が必要でその作業も大変でした。そこで以前まだ土耕栽培だったころに水やり用に使っていた塩ビパイプの散水ダクトを再利用してCO2の循環を工夫、持っている資源を最大限に活用をしているとのことです。

現在は高設栽培方式で水やりは肥料と水を自動で送れるようになっています。タイミングや水の調節は、土に指を入れて乾燥具合を確認、味はイチゴを試食で確認してその都度濃度を変更することで、自分の指の感覚も、自動化の部分も上手に活用するのも大事という靖子さんですが「スマート農業は物凄く資金が必要で、普及センターさんともお友達になって、通常はお金がかかる実験データ部分を無償提供していただくなど、いろいろ工夫しながらスマート農業を取り入れています。」と、多方面に仲良くなっていくことも大事と靖子さんは笑って話します。

新規就農でイチゴ栽培を考えている方々へ伝えたいこと

首都圏から新規就農で地方に来てイチゴのハウスを建てたいという方が、初めからイチゴの栽培をするというのは、資金面で大変なようです。

靖子さんは「その場合長期プランで考えて、まずは一度、土耕のハウスを補助金で建て、野菜栽培で資金を貯め、その後生産品目を変えて、新たに補助金を申請してイチゴ栽培に転換するという方もいるようです。皆さんその都度、農協さんと資産のことや様々な補助金についての相談をしながら計画を進めておられるようですよ。」とアドバイス。

さらに「私もそういう感じで農協さんに相談して、補助金をいただいて利用させて頂いていました。身の回りにある様々な制度や環境を上手に利用して、就農に一度に投資するのではなく、少しずつお金を利用して栽培してほしいですね。」さすが元農協職員の靖子さん、しっかりと情報を得て活用されているようですね。

靖子さんの今後の目標と叶えたい夢

安全安心と品質を一番に考えている靖子さん「植物は全て光合成をしていて、そのためにはCO2が必要なんですが、日中は暑いのでハウスを開閉してCO2を逃がしてしまうので、低コストな発生機で補ってあげています。そういう環境を保つことで、イチゴはしっかり光合成ができて、ピカピカで虫の来ない、安全な手作り農薬でも病気になりづらく、とってもきれいなおいしいものができるんです。私は使わなくなった資材もすぐに廃棄せず、今ある資源を最後まで大切に使ってコストを少しでも下げて、将来的には連棟のハウスを建てたいんです。スマート農業を低コストで運営しながら、皆さんにおいしいイチゴを届けるのが私の夢です」と話してくれました。

<今・回・の・お・ま・け>

「一粒残さず収穫し、冷凍したイチゴがコットンキャンディになる話」
「安心安全な美味しいイチゴに惚れ込んだパティシエールの話」
是非、動画の最後までご覧ください。