平泉町から「いっぽ」ずつ未来へ 夫婦農家の挑戦!

「別々に生まれ育ち 別々に学び
就農を全く考えていなかった二人が
さまざまな経験や 多くの人と触れ合う中で
 夫婦で農業を目指すと決めた思いとは!」
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「いっぽファーム」石川智之さん・圭さん(平泉町)

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ゲストプロフィール

今回のいわて未来農業創造人は、岩手県南の平泉町と奥州市で営農する「いっぽファーム」の石川智之さんと圭さん。
岩手で生まれた智之さんと、埼玉で生まれた圭さんは、それぞれの目標を持って大学に進み就職。その後転職を経てたまたま同じ職場になったことをきっかけに結婚し、智之さんの実家の休耕地を復活させて「いっぽファーム」を立ち上げた。
現在、就農3年目という若手世代ながら、多品目・複数拠点を組み合わせた営農体系で、着実に規模と可能性を広げているお二人。

まずは、いっぽファームさんの栽培品目と周辺地域の特徴を教えてください。

智之さんの実家前、道路を隔てた向かい側に広がる約80アールの農地が、いっぽファームの農場。主力の品目はナスで、9棟・19アール(約600坪)で夏場のナスを生産。出荷先はJAいわて平泉を中心に、地域の産直やスーパーなどで、昨シーズンの生産量は約15トン。露地では、季節や需要・作業分散を見据えて品目を組み立てながら、トウモロコシ、サツマイモ、カブ、ショウガ、落花生など、年間で約10品目を栽培。冬場は”ナスの裏作”として、奥州市にあるハウスでイチゴを18アール(約600坪)で栽培している。イチゴは一般的に初期投資が大きいとされるが、使われていないイチゴ栽培用ハウスを紹介してもらい、夏のナスと冬のイチゴの二つの柱で栽培。通年での収益安定や雇用継続にもつなげ、夫婦二人に通年雇用と短期雇用も含め約6名ほどの体制で作業している。

平泉と言えば世界遺産のある観光地のイメージがありますが・・・

平泉町は、中尊寺や毛越寺といった観光地のイメージが強いが、いっぽファームは北上川東側の山村地帯。身近にカモシカが現れ、家の前には町の天然記念物にも指定されている樹齢400年ほどのエドヒガンザクラがある。圭さんは「何もない」と言われる環境についても、車で15分走ればスーパーがあり、沿岸から来る食品販売車で新鮮な魚も買えるなど、不便さは感じない。自然の豊かさと生活利便が両立する土地だと話す。

元々は、お二人とも「就農する気持ちはなかった」とお聞きしましたが。

智之さんは山村で生き物や自然に親しみながら育ち、家業の農業には無関心。祖父の代での専業農家は父の代は兼業農家となり、農地や農業はむしろ将来の負担、いわば”負の遺産”のように感じていた時期があったという。自然科学に興味があったことと、高校時代に始めた弓道にのめりこんだことで、学びと競技の環境を求めて東京の大学へ進学した。
大学卒業後、岩手へUターン。二戸の食品会社で約6年半勤め、食品製造ラインの管理から部門・部署のマネジメントまでを経験し、経営や人のマネジメントへの関心が強まっていった。
30歳を目前に、地元の岩手県南へ将来戻るかどうかを悩む中で、かつてマイナスに見えていた農地や農業が「資産に変えられるかもしれない」と、本気で捉え直し始める。
農業を“生産”だけでなく“産業”として見たい。そう考え、京都に本社を置く農業ベンチャー「マイファーム」へ転職。配属は東京。二度目の東京生活で、農業ビジネススクールの運営に携わりながら、農業の世界を現場以外の側面から学んでいった。
スクールには、社会人として本業を持ちながら週末に学ぶ受講生が集まり、多様なバックグラウンドの人々がいた。そこで智之さんは、農業は野菜を作るだけではなく、食べるところまで関わり得る産業であり、関わり方が無数にあることを実感する。経営を組み立て、仕組みを作り、価値を届ける。そうした視点を磨くほど、「農業経営をちゃんとやれば、自分が持っているものを資産に変えられるのでは」という確信が強まっていったという。
圭さんもまた、もともとは農業とは遠いところにいた。埼玉の一般的なサラリーマン家庭で育ち、父が趣味で家庭菜園をする程度。本人は作物を育てることにも野菜にも興味が薄く、大学ではメディア分野を学び、出版業界を志す。しかし就職後、体調不良で半年ほどで退職し、回復の過程で「食の大切さ」に気づく。そこから食材や食の仕事に関心を持ち、青果仲卸で事務職として働き始め、仕入れに関わる中で農家と接点が増え、農家の仕事への誇りや姿勢を目の当たりにして、農業へのイメージが変化していった。「作って売る」だけではなく、自分でマーケティングし販売する姿に共感し、農業の奥深さに惹かれていく。もっと農業を学びたい――その思いが、マイファームへの転職につながった。

その当時のお二人のお互いの印象をお聞きしてもいいですか?

マイファームで二人は出会い、同じ部署で働く。智之さんは、講義や企画のように「自分ができることを提示して興味ある人が来る」スタイルになりがちだったが、圭さんは受講生一人ひとりの状況を把握し、必要な機会や相談先を丁寧につなぐ“人と向き合う仕事”をしていた。智之さんはその姿勢に尊敬を抱き、仕事のレベル感が引き上がったと感じたという。圭さん側から見ても、智之さんは「自分を持って仕事をする人」で、価値観が違うからこそ自然体でいられ、言い合える関係が築けた。周囲からは「違うからバランスが良い」と言われ、互いの欠点を補える関係性だと感じている。

就農前には、何か農業研修みたいなものは受けられたんでしょうか?

就農前の研修も、二人の方向性を形づくった。圭さんは品目が定まらず研修先探しに苦労しつつ、北上市の多品目農家で学ぶ中でナスに出会う。調理の幅が広く、食卓を楽しませてくれる食材としてナスが好きだったことに加え、栽培のリズムや作物の変化が自分に合っていると感じ、主力作物として選んだ。一方智之さんは、当初は「妻がやりたいなら自分は働きながらサポート」程度に考えていたが、施設栽培への興味からイチゴ栽培の会社で働き、イチゴの魅力に目覚めていく。みんなが笑顔になるうえ、付加価値も付けやすいこと、システマチックな栽培が自分に合っていることから、将来的にイチゴを営農体系へ組み込む構想を強めた。結果として、研修で得た経験が現在の主力作物へ直結している。

「いっぽファーム」というネーミングに込められた想いをお聞かせください。

2022年秋、いっぽファームとして独立。名前の「いっぽ」には、二つの想いが込められている。ひとつは、これまで頑張り切る姿勢で突き進み焦りがちだった自分を見つめ直し、今後は足元を固めながら「焦らず自分のペースで、一歩一歩」進みたいという人生観。もうひとつは、非農家出身として農業に飛び込んだ自分を多くの人が支えてくれた経験から、今度は自分たちの農園が「誰かの挑戦の一歩を支えられる場所」になりたいという願いだ。
表記を平仮名にしたのは字画の良さもあったが、それ以上に柔らかく親しみやすい印象を大切にしたかったからだという。「農業に興味がある人も、まだ関心が薄い人も、気軽に訪れて触れ合える場所へ」そんな方向性が見える。

性格が違うお二人、農業に対する考え方に違いや共通点はありますか?

運営面で二人の役割分担は“真逆”と言えるほど対照的。智之さんは汗水たらす現場作業が得意ではないと正直に語る一方、マネジメント、経営設計、栽培体系全体を考えることが好きで、そこを突き詰めていくタイプ。圭さんはその逆で、汗水たらして働き、作物を良い状態で作り、食べてもらい、喜んでもらうことに価値を感じる。ビジネス志向とライフスタイル志向。違いがあるからこそ、営農の中で補い合い、農園の推進力として機能している。

今後の10年、どんな未来を描いていきたいか、お話をお聞かせください。

10年後の未来も二人のバランスの延長にある。圭さんは、いっぽファームが地域に根付き、暮らしに寄り添う農園になりたいと語る。作って売って終わりではなく、人が集まり、学びがあり、「ここに来ると落ち着く」と言ってもらえる場所。智之さんは、まず利益をしっかり出すことが前提と語る。利益があってこそ、やりたい活動ができ、地域へ還元できる。地域の子どもたちを呼んで農に触れる体験を提供したり、笑顔を生む場をつくったりすることも視野に入れている。

農家の後継者不足が課題となる中で、お二人の歩みは、経営や仕組みづくりの観点から農業へ参入する道もあれば、健康や食への関心から現場へ踏み込み、農に生きがいを見出す道もあることを示してくれた。
また、農業が多様な経験を生かし、自らの意思で選びとることのできる職業であること、そして今後の農業の可能性と未来の広がりを感じさせてくれる。
いっぽファームのお二人の挑戦は、これからの若者たちが職業選択するうえで、選択肢を広げる確かなヒントとなった。


<今・回・の・お・ま・け>


「ナスのレシピいろいろ試食」「イチゴいろいろ食べ比べ」
ぜひ最後までご覧ください。